また、瞳を閉じてみる

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 幼い頃、母親に育てられている私が一番 怖かったのは、ゴキブリだった。 家計が苦しかったのか、手っ取り早かったのかは 疑問だが母親は水商売をしていた。 アパート暮らしで、京都の南の方だったかな?  あまり覚えていない。 何より、夜中に一人で居たことが印象に残っているだけ。 ある晩いつもの様に出勤前、母親は部屋の電気を 豆球だけにして「おやすみ。行ってきます。」と、 言って玄関を出た。いつも通りのはずだった。 もう直ぐ瞳を閉じるんだけど、まだ目を開けたまま 薄暗い天井を見ていたと思う。 すると突然、横切る黒い陰!!  「げぇ-!!」「ゴキブリ?!」「嫌だよッ!!!」「怖いよ~!!」 慌てて、外に飛び出た。裸足で、泣きながら アパートの前まで…。 テールランプが向こうの方で曲がろうとしていたと思う。 大通りに出る所だったのだろう。 「おかあさーん!!おがーざーん!!」て、大声で叫んでたはず。 二階のオバサンが、「どうしたん、大丈夫?」って声を かけてくれてるけどそれ所じゃない。 「おかーさんが。おかーさんが。おかーさーん。」 ばっかりだったかな?! 何回言ったか分からないけど実際、両鼻から鼻血 垂れ流しだったのは間違いない。 足元の地面が血だらけだったから…。 どれ位かは、ハッキリと覚えてないけれど直ぐに 母親は帰ってきた。実際、不思議だ。 あのままだったら貧血になって倒れてるねっ、絶対。 後々聞くと、胸騒ぎしたらしいんだけど 今考えても恐ろしい。 で、帰ってきた母親にちゃんと説明したはずだ。 「ヒック、ヒック」って、言いながら。 でも幾ら探してもって、それほど探す場所は ないんだけど家にゴキブリは居なかった。 それもそのはず、その正体は「蛾」だったから。 今思えば「蛾」も気持ちいいものでは無いけど、 あの頃の私には多分「蝶々」ぐらいに 思ってたからそれは怖くなかったんだと思う。 一応、一安心したんで私を寝かしつけて母は 予定通り仕事に出かけた。 背に腹は代えられない。こんな事で休めないんだ大人は…。 ようやく瞳を閉じることができた。 まだ小学校に上がってなかったなァ。
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