また、瞳を閉じてみる

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 もう一つ心に残っている出来事は、 京都の東寺(五重の塔で有名)の真裏にある 東寺保育園に通っていた頃の話だ。何時も母親に 送っていってもらってたと思うけど 一人でバスに乗って行かされたことがある。 初めてのお遣い状態だけど、本当に一人。 忙しいとは言え、考えられないことをさせる親だ。 朝の通勤バスだから混んでいるのは当たり前だし、 何より大きい人の中で揉みくちゃだった。 降りるバス停を何度も頭の中で繰り返し、 保育所に行くことだけを考えてバスに揺られた。 東寺を越えるとイケないことは、十分解っていた。 降りるバス停の前に、ボタンを押すことも 容易にできていたと思う。 次に降りる準備として、前に行かないといけないが なかなか行けない。大人は、重い。 それでも前へ、必至で押しのけていったのだろう。 停車するときの揺れで、小さな手に握り締めていた 小銭タチが一斉にばらまけた。 あわてて拾う、バスが停止している間にと…。 もう少しで拾い終わる頃、 突然バスが出発し始めたからビックリした。 大きな声で泣き叫んだ「降りま~す!!!」 運転手さんも慌てて急ブレーキをかけ、停めてくれた。 何とか、無事に降りられたけど実際怖いってもんじゃない。 頭の中に、想定外のことは入ってないから 尚更パニックになるし直ぐに泣いてしまう。 やっぱり母親は、鬼なのか?! 「できると思った。」「出来たやん。」て、よく言うよ全く。 この頃の夜も常に独りで、その頃良く聞いていた歌がある。 母親の好みのユウミンが定番で、他には 「そっと、そっとおやすみなさい。」って歌。 テープから流れてくる寂しい歌を聴きながら、 一筋の涙を流し口ずさみながら寝てたよなぁ。 本当に、そっとそっと瞳を閉じてたと思う。 がまんは、限界だったと思うけど…。 夜の独りは淋しいもの…。
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