また、瞳を閉じてみる

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 純粋さは今も持っているが、あの頃は凄く 男らしかったと思う。 相変わらず夜に仕事をしている母親で、 忙しそうな日々だった。 お酒も飲むし、接客業だから気も使う。 家に帰ってきては、いつもクタクタだっただろう。 私がまだ起きている時間に出て行き、明け方に 帰ってくる生活。小学校に通い始めてからは、私も結構 慣れてきていたのかも知れない。たぶん、表向きは…。 あれも寒い頃だったと思う。ほとんどは、母親が 帰ってきても気付かないことが多くいつの間にか 横で寝ている感じだった。 ある明け方、いつもの様に母親が帰宅した。 瞳を閉じている私が、たまたま寝ぼけまなこで気配を感じた。 疲れきった母親は、直ぐに着替えてベッドに入った。 私独りでは大きすぎるダブルベッドだが、 母親と二人でもまだまだ大きい。丁度真ん中で寝ている 私は、自分の足を冷たい母親の脚の間にそっと入れた。 「僕が、暖めて上げる。」と言って…。 何時も自分が男であり、「男は女を守るもの。」って 想いが何処かにあったのは間違いない。 どうやって守って上げるべきかなんて全然分からないけど、 せめてもの優しさだったと思う。 何も考えず自然にとった行動だったけど、 私も覚えているが母親も又覚えていたのだ。 親子として、ほんの小さな思いやりも心にシミる 淋しい時間がくれた幸せだろう。 今思えば、力もなく小さな勇者も大きな大人達に 負けないように必死に戦っていた。 男達への疑念は、そういう所から生まれたのかも知れない。 母親を守れるのは私だけで、騙されぬよう絆されぬよう いつもそばで守ろうとしていたのかも知れない。 まだ何も知らない、ちっちゃな子供の大きな男気…。 本当に、怖かったんだけど。 誰かに盗られ、いつ捨てられてしまうかも知れない恐怖と 朝起きて隣で寝ている安心感と日々向き合ってきた。 結構、強くなれたんじゃないかなァ!? 今の自分は…。
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