一章 霧雨館

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「……で、どっちが霞さんで彩莉さん?」 片霧は、運転手を見送ってから問う。 霞と彩莉の二人は、傍目からでは見分けが付きにくい。 「天草様の鞄を持っているのが、姉の霞。私は妹の彩莉と申します。家主には代々家系でお世話になっております。話し方、容姿の統一は義務であり、お客様には私達を家具と扱うように申し上げております」 彩莉が、片霧を見返した。綺麗な髪の長さも慎重も見事なまでに類似しており、片霧には一瞥で二人の特徴を見分けることができなかった。 「じゃあ。君らはどっちが出てきてもメイドさんと呼ばなきゃならないの?」 片霧は、二人を交互に見る。 「片霧君。そんなに二人を見分けられないのか」 「ああ?前に大根工場で形が違う大根を取る作業をしたけれど、あれとも違って一目じゃわからない。おっさん、なにか見分ける方法があるのかよ?」 片霧は、穴が空くほど霞と彩莉を見詰めた。彼女達は、照れる様子もなく佇んでいる。 「ある」 「それって?」 「ズバリ。胸の大きさ!」 天草が、彼女達の横に回って宣言した。 霞が、胸を庇う。 彩莉は、不思議と無反応であった。 片霧にはその天草の意図が掴めなかったが、霞には掴めたようだ。
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