四章 恐怖

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白河は、ベッドの上から動くことができずにいた。 具合が悪いせいではない。 緑が、手首を切ったことに動揺していたのだ。 白河の部屋の電気が、点滅する。そろそろ寿命なのだ。 メイドの霞が、交換を申し出たが、断った。今は誰も部屋には入れたくなかったのだ。 天草が話しを聞きに訪れてから、三十分は経つ。 今、館にいる人々が何をしているのか白河には分からないままだ。 それ以前に館の人々が何を考えているのかも分からなかった。 唯一、彩莉だけが自分を理解してくれていると感じていた。 また、数分が経って、扉が叩かれた。 返事をする気にもならなかずに、息を潜める。 「啓太様、広間にお出でください」 霞と彩莉の違いを啓太は声で判断する。 二人を一瞥で見分けるなど到底できなかった。 特に具合が悪い時は、二人を間違えてしまうことが多くある。それだけ、二人の容姿は似ていた。 「もう、お休みですか?」 不安げな霞の声が届く。 暫く黙っていると霞の気配がなくなった。 白河は、扉の隙間から廊下の外を覗く。 誰も居なくなった廊下を見て、安心した白河は、ベッドに戻り頭を抱えた。 この館の連中は、おかしい。
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