雨音にまぎれて

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 気づいたら雨も小降りになっていた。 「先輩と話したら、少し楽になりました」 「そう」 「……ちょっとだけ、愚痴ってもいいですか」  どこか寂しげな彼女の言葉に、僕は静かに首を縦に振った。 「彼……いえ、元カレにですね。……言われたんですよ。先輩の悪口を。  学生なのに学校で酒を飲むなんてどうかしてる、とか、あんなバカと同じ部活にいると、おまえもバカになる、とか。  つい『余計なお世話だ!』って言っちゃいました」  カバンについているキーホルダーを、指で何度もはじく。 「……いつも君に言われていることと、同じ内容な気がするんだけど」 「自分で言うのと、人に言われるのは違うんです。先輩をバカにしていいのは、わたしだけですから」  その言葉に少しびっくりして、僕が「それは困るな」と呟くと、彼女に「ちょっぴり困るくらいが丁度いいんです」と返された。 「ほったらかしにしておくと、すぐに先輩はへべれけ高校生になっちゃいますからね。  やっぱり、わたしが監視しておくのが丁度いいんです」 「君が自分で作った味噌汁も、丁度いい味になればいいんだけどな」 「……それは、言わないでください」  その声はさっきに比べると、少し明るくなっている気がした。 ◆ 「雨、止みませんね」 「だね」  あれからしばらく経ったのに、雨はまだザーザーと降り続けている。 「先輩は何か特技ってありますか?」 「……踊り、とかかな?」  僕の返事がよほど予想外だったのだろう。  彼女は偶然UFOを目撃したかのような表情で、僕を振り向いた。 「せ、先輩が踊り、ですか? お酒飲んで酔拳、とかじゃないですよね」 「ヒドい言いようだね」  それだけを口にして、僕が何も話さないので、彼女はしばらくして、うーうーとうなりながら考え始める。  待ちくたびれた僕の手が、再びイヤホンにのびたとき、彼女の声が聞こえた。 「わかりました!」  目をキラキラとさせる彼女に「言ってみな」とうながす。 「先輩が得意なのって、ダンスですよね?」 「まあね」  僕の言葉で確信したのか、彼女は自信満々に解答を告げた。 「先輩の特技は、デカダンスですね!」
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