ちょっとした非日常の準備を

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 信じがたいことに、この学園の高等部と中等部の二年生は他学年に比べて休みが短い。主な犠牲の日は、新入生歓迎だか何だか知らないが、入学式前日に登校して校内の掃除、体育館の式設営。修学旅行の事前説明会。卒業生を送る会は入学式と同じくである。  今日はその入学式準備で私たち高等部二年生は学校に来ている。  万学園――ここは初等部から高等部までのエスカレーター式マンモス校。同敷地内には大学部もあり、進学も容易い。第一に挙げる校訓は「自由」、そして「自戒」「自律」と続く。要するに「好き勝手していいけどてめぇで責任をとれよ」と言っているようなもんだ。  校訓に挙げられるよう、かなり自由度が高い学園である。通学するか寮に入るかも自由。部活、委員会も自由、バイトも自由だし寮の門限も特にない。校内は生徒であればいつ如何なる時も出入り自由とまで来た。いったい防犯の方はどうなっているというの。  私――伊達 藤紫は通学を選んでここに来ている。初等部からずっとこの学園に通っているが、それは単に受験勉強が億劫だから。ここなら一定の点数を保つだけで高等部に進学出来るし、簡単に推薦してもらえるので大学部にも楽に進める。多分私と同じ理由でここに通う生徒は少なくないだろう。 「ねぇ藤紫ぃ、聞いた?新担任と皎鉄!」 「あぁ、なんか早速殴り合いになったとかなってないとか」 「皎鉄はいいヤツなんだけど、喧嘩っ早いとことかダメよね~」  中庭が私に当てられた掃除場所で、数人の友達も一緒にゴミ拾いをしている。忙しくなければ、いや忙しくても女は集まると喋りたくなる生き物らしい。さっきから手も口も忙しなく動かしてやれ「イケメンが入学したらいいな」だの「明日は一年女子の品定め」だのつまらない話題で盛り上がっている。  私達の担任は去年の胆振先生から変わって、牡丹先生になった。整った顔立ちなので女子は色めき立っている。男子も取っつきやすいらしくて喜ぶ声が多かったが…正直私はがっかりもいいところ。牡丹先生より胆振先生がよかったのに、そう呟いたら友達から正気を疑われた。こんなイケメン先生で不満なの!?って。別に不満なんじゃなくて、ただただ胆振先生のことが好きなだけなのに。 「生徒を殴るような先生でもいいの?」 「やーねぇ藤紫、あれよ。ただイケってやつよ」 「顔がいいと得するのね」
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