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「それにしたって、どうして殴り合いになったのかしら」
「あたし最初っから見てたから知ってるよ~。皎鉄と牡丹先生は去年から仲悪かったみたい。それが担任になったから皎鉄が悪態吐いて喧嘩に発展したんだって」
「ガキの喧嘩じゃん!」
「で、牡丹先生が折れてやったらしいよ」
「それで皎鉄があんな不機嫌なのかー」
この通り、ひとつ話題を提供してやればあとは周りがお喋りに夢中になってくれるので、私は聞き役に徹する。
とはいえ…そろそろ日も高くなってきた。確か正午まで掃除、終わり次第解散だったはず。この調子で喋り続けると掃除が終わりそうにない。
「二人とも早く掃除終わらせて、何か食べて帰ろうよ」
「賛成!じゃあ早く終わらせちゃお~!」
「藤紫はそっちね」
友達はそれぞれにゴミ袋を持ってその場を離れていった。もっと早く提案しとけばよかった…とは言わないでおこう。
掃除を終えて報告を済ませ、帰りの準備をしていたらなにやら体育館が騒がしい。友達が興味本意で覗きに行ったのでついていくとそこには眩しい白髪の同級生――皎鉄がいた。
「何してるのかしら」
「ああ、藤紫…そこ、ガラス割れてるだろ?」
「まさかあなた」
「違ぇよ!…三年生らしいんだけど…」
皎鉄から聞いた話を纏めると、素行の悪い三年生が体育館裏でたむろしていて、それを会場設営係の二年生に見つかり軽い騒動になった。さらに駆けつけた教師たちから逃げようと暴れて、ガラスを割ってしまった…ということらしい。
「これの片付け…俺たちがやらなきゃいけないんだぜ?」
「ご愁傷さま」
「…手伝うとか言う発想は?」
「生憎ないわね。いいじゃない寮なんだから。私もうすぐバスの時間なのよ。じゃあね」
そう、学生寮までは徒歩5分なのだ。夏の茹だるように暑い日や冬の凍えるほど寒い日には羨ましい限りだと思う。
「えー、藤紫帰っちゃうの?」
「ごめん、今日は平日と時間が違うの忘れてたの。またね」
友達とも別れを告げて、バスの停留所へ向かう。春の日差しが暖かいものの、風はまだ冷たい。明日の天気は、晴れらしい。
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