入学おめでとう!

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 桜の盛は過ぎたとはいえ、それでも見事に木々を彩る薄い紅。卒業式には遅く、入学式には早い。桜の咲く時期がずれてきているのか、行事がずれているのか…どちらにせよ、八分咲き程度の桜が新入生を歓迎することに変わりはない。 「皎鉄はどこかしらねぇ」 「本人を目の前に。藤紫お前、喧嘩売ってんのか?」 「ご冗談を。それで、何をしていたの?」  渡り廊下からは体育館が見えるようになっている。入学式には各学年の代表のみの参加で、たとえ生徒会の俺――皎鉄であっても参加できない。ので、授業もない、部活もない、課題もない暇なやつはここで「新入生出待ち」をしている。  入学式が終わって午後からは授業のため、藤紫のように早めに来る通学組もいるようだ。現にこの渡り廊下には十数人の生徒が体育館の様子を見に来ている。 「お前こそ、新入生になんかたいした興味ないだろ。何でここにいるんだ?」 「興味ない訳じゃないわよ。ただみんなジャガイモみたいと思うだけで」 「やっぱりたいした興味ないじゃねぇか」  おおかた教室で女子の話を聞くのに疲れたんだろうと予想して、視線を藤紫から外した。とそのとき、体育館が騒がしくなり新入生たちが出てくる。新入生は午後からの授業はなく、このまま解散。明日から通常通りの登校となっている。渡り廊下の生徒たちは面白半分に顔面を採点していた。  それに倣って俺も新入生の顔を観察していくことにしよう。例えばあの子なんて、顔は可愛いけど残念なほどまな板だ。育ちの良さそうなお嬢さんもいる。歩くたびに横に結んだ髪がぴょこぴょこ跳ねてて面白い。入学早々ダラッと緩く制服を着てる男子もいた。勇者だな~。一瞬女に見間違えそうなほどあどけない顔立ちな男子、見るからに幸薄そうな男子。今年の一年生は濃いな…。 「あら…胆振先生ー」 「あぁ、胆振先生が一年担任か」 「いいなぁ一年生…」  藤紫が呼んだ先にいたのは去年俺たちのクラスを担当した胆振 政周先生。こっちに向かって手を振り返して職員室へと入っていった。  藤紫はというと…とても嬉しそうだ。二年生の中では「伊達は胆振先生が好き」という噂で有名人な藤紫、この様子を見れば噂の否定は出来ないよなぁ。
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