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鏡花と草壁は山本老師に呼ばれて、不動寺の本堂にいた。
「お二人をお呼びしたのは、お二人に見ていただきたい物がありまして。これなんですが」
そう言うと老師は二人の前の床に、かなり古い物と思われる一巻の巻物をするすると広げて見せた。それは絵巻物と言って、絵と文章で一つの物語を描いたものだった。
「これは当寺に伝わる『桜姫絵巻』と申します。桜姫事件の顛末が書かれております。ここを見て下さい」
そう言うと老師は絵巻のある箇所を指し示した。鏡花は身を乗り出して読んだ。
「時に魔性の物、人の姿をうつして惑わしたり。また、腹をすかせては人を喰らう。」
その文章には口を血に染めて人を喰らう魔物の絵が書き添えてあった。老師はまた違う箇所を指し示して、
「この箇所は魔物退治について触れております」
鏡花は続けて読んだ。
「時に法師、緋月の血に連なる男子の生血を矢尻に塗りて、両面すくなに祈り給いて、これを討つ」
これには僧が弓矢で魔物を討つ絵があった。
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