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「これを見ると、魔物は簡単に人間に化けて、腹をすかすと人を喰いころすということのようですね。そして、退治するためには緋月一族の誰かの生き血を矢尻に塗って射ころすしかないようです。ところで、両面すくなに祈るという、『両面すくな』とは一体何者ですか?いわゆる神社仏閣に祀られているものとしては初耳ですが」
「そうでしょうね。『両面すくな』は飛騨地方でしか祀られていない、飛騨独特の信仰ですから。両面すくなは『日本書記』仁徳天皇の御世に朝廷に従わぬ原住部族の長として出てまいります。結局、朝廷が遣わした武振熊(たけふるくま)という将軍に討たれてしまうのですが、この地方では、いまだに神としてお祀りしているのです。」
脇から草壁が、
「伯父さん、私もその話は昔、母から聞いたことがあります。何でも、両面すくなは頭の前と後ろに顔が二つあって、腕が四本、足が四本あったそうですね」
「その通り。彼は四本の足で自在に走り回り、四本の腕で自在に矢を射て、朝廷軍を悩ませたと言うことだ」
そう言うと、老師は愉快そうに笑った。
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