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鏡花と老師が本堂の縁に座って、固唾を飲んで闇に目を凝らしていると、いつしか雨は小止みになり、葉露となって滴を落とした。
その時、闇の中から、ヒタヒタと人の気配が近づいて来た。やがて、向こうから川上が近づい来るのが見えた。
「おお、帰ったか!」
老師の顔に安堵の色が広がった。川上は老師の前で立ち止まると、
「遅くなりまして」
そう言って頭を下げた。
老師が、
「疲れただろう。早く中に入れ」
そう言って踵を返した刹那、川上はものすごい勢いで老師に飛びかかった。川上は両腕で老師を羽交い締めにすると、川上の額がザクロのようにパックリ割れて、中から腕のような赤黒いものが飛び出すと、その先端には牙が生えた口があって、老師の痩せた喉笛に噛みついた。一瞬の出来事で、そばにいた鏡花にも、なすすべがなかった。
「おおっ」
老師は叫ぶと、倒れざまに本堂の中に入ると、不動明王の立像の前に行き、不動明王像の右手に握られた剣を取ると、最期の力を振り絞って、川上の頭上に降り下ろした。川上は絶叫すると、その場に倒れ臥した。
「老師ッ!」
鏡花が駆け寄り、抱き起こしたが、もはや、手の施しようのない状態だった。
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