飛騨妖魔変

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既に腕も足も体も動かす力を失った老師は息をひきとる直前、一瞬視線を不動明王像に投げて、何かを鏡花に伝えようとしたのを鏡花は見逃さなかった。 鏡花は静かに老師の亡骸を横たえて、合掌をした。そして、川上の遺体があった場所を振り返ると、そこにあった川上の遺体は消え失せ、干からびた人間の右腕が落ちていた。 ―これが魔物の正体か。桜姫の八つ裂きにされた体の一部だったのか。しかし、なぜ、緋月一族の血も無いのに魔物を討てたのだろう― そんなことを考えながら、鏡花は老師が指した不動明王立像に近づいた。 ―あれ?― 鏡花は何かが違うことに気づいた。 鏡花は像の台座に手を掛けて、ゆっくりと回転させた。 「おっ」 思わず、鏡花は驚きの声をあげた。その不動明王立像は頭部の裏側にも顔があった。いや、顔だけではなかった。裏側にも二本の腕、二本の足があった。そして、その腕には弓と矢がそれぞれ握られていた。 ―これは不動明王ではない。『両面すくな』だ!老師はそのことを知らせたかったんだ!
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