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飛騨の国の奥深く、山に囲まれた小さな城があった。緋月一族の居城、その名を緋月城と言った。その城には桜姫と言う大変美しい姫がいた。しかし、桜姫はその美しさとは裏腹に残忍な気性の持ち主だった。村人に罪を作っては捕らえて殺した。その生き血を満たした桶に沐浴をし、また、夥しい死体の山を眺めて琴を弾いた。姫の悪行にたまりかねて、行者覚隆は讒言をしたが、姫の怒りをかい首をはねられた。覚隆には丞之助と言う一人息子がいたが、彼は父の仇を討つべく城に潜入し、見事に桜姫を殺し、その遺体を八つ裂きにした。ところが、その八つの肉片から八つの魔物が生まれ、人々を苦しめた。そこに旅の僧了海が現れ、魔物を緋月城の地下深くに封じ込めたと言う話です」 そこまで聞いて、泉鏡花はため息をついた。
「君が私をこの山深い飛騨に呼んだのは、つまり、今度、鉄道省が緋月城跡の真下に掘ろうとしているトンネル工事をやめさせるため。そういうことかい?」
「先生、さすがに小説家だけあって話が早いですね。まさにその通りです」
そう言うと、飛騨日日新聞の記者である草壁新一は沈痛な表情になった。
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