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この山本老師は草壁新一の母方の伯父にあたる人であった。草壁が自身の勤務中の鏡花の話し相手に紹介してくれたのである。彼は若い頃より真言、修験の修行を修め、また、土地の口碑伝説に詳しかった。
それから2ヶ月は何事も無く過ぎた。季節は間もなく秋を迎えようとしていたが、鏡花はこの地を離れるわけにもいかず、宿での執筆活動を余儀なくされた。しかし、この間にも着実にトンネル工事は進んでいた。そんなある日、3人の作業員が真っ暗なトンネル工事の最奥部で、いつものようにツルハシで岩盤を打ち砕いていた。カンテラの灯り一つが頼りの、それこそほとんど闇と言って良い暗さだった。一人の作業員が何かに気づいた。
「おい、何かあるぞ。ツルハシの先が何かにあたった」
仲間の作業員が、
「どれ」
そう言って暗闇にカンテラを突き出した。すると、そこには石でできた箱のような物が頭を少し出していた。
「何だろう?」
もう一人が言った。
「所長に報告しましょう」
そう言って、その作業員が立ち去ろうとするのをカンテラを持った作業員が制止した。
「まあ。待て!」
「なんです?」
作業員は怪訝そうに振り返った。
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