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ただでさえ、しっかりと体勢を整えていても葉月は勇次郎に押し切られたのだ。体勢を崩し、無理矢理防御の姿勢をとった今の状態では、力比べになるまでもなく勇次郎の攻撃を受けてしまうだろう。
「さっさとどけ!」
勇次郎の剣と葉月の剣が交わる。衝撃が伝わると共に僅かに沈んだ葉月の剣を見て、勝利を確信した勇次郎は口元を歪めた――
「……っ!?」
刃が滑る音とともに、勇次郎の体勢が崩れる。
更に体勢が崩れることをいとわずに腕をねじって攻撃を横にずらした葉月は、不自然な推進力を持って勇次郎のがら空きになった胸元に左肘を叩き込んだ。
「ぐ……っ!」
勇次郎の食い縛った歯の隙間から呻き声が漏れる。立て直さない内にと葉月は追撃を仕掛けるが、これは素早く後方に飛び退き躱されてしまった。
「はあ……くそ、なんであの体勢から攻撃出来んだよっ!」
「……さあな」
余程胸部への一撃が効いたのか、苦しげに眉を寄せて叫ぶ勇次郎にすげなく返答をすると、葉月は剣を構えた。
言うまでもなく、先程の不自然な推進力は《フルトゥナ》によってもたらされたものだ。一回目の鍔迫り合いでは勇次郎の慢心を誘発するためにわざと使用せず、二回目、見事引っ掛かり、短絡的に強引な手に出た勇次郎を叩くという葉月の思惑は果たして成功した。
「……来いよ」
葉月は口の端を吊り上げて挑発をした。
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