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「……かな、りあ? それって……」
「さーって! 勇太郎の質問にも答えたし、もうここにいる意味はないんだにゃんっ!」
いつもの明人を彷彿させる口調で勇太郎の言葉を強引に遮ると、明人は視線を前に戻した。フェザーストールが湿り気を含んだ風に煽られ、似つかわしくないほど軽やかに舞う。
無粋にも二人の間を横断する風を楽しむように、明人はそのままフェザーストールを遊ばせる。しかし、それにもすぐに飽きたのか、無造作に手をポケットに突っ込んだ。
「もう、硫黄明人はいない」
急な断言に、勇太郎の呼吸が止まる。思わず明人の背中を凝視するが、いつもと変わらないその背中からはなにも読み取れない。
「だから、さ……」
その肩が小さく上下した。明人は僅かに振り向き、呼吸をすることも忘れて己を見ている勇太郎と肩越しに視線を交える。
視線の先で、苦笑がこぼれる。
「……ばいばい」
ポツリと呟かれたのは、純粋な別れの言葉だった。
否定も勘違いも許さない程澄み切ったその言葉は、勇太郎に多大なショックを与える。
「勇次郎、帰るよー!」
絶句する勇太郎を無視して未だ葉月と交戦中の勇次郎に呼び掛けると、明人は駆け出した。
その瞳は、今まで状況を楽しみ、観衆と化していた黄色い少女達――絶対正義の幹部達を真っ直ぐに見据えている。
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