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「ん……はぁーい、ご苦労サマ。じゃあ、ほら。帰りますよー?」
まるで、日常の一コマのように。欠伸を噛み殺しながら明人の言葉を流した少女は、左右に立つ二人の青年を隈が出来てしまっている眠たげな瞳で覗き込んだ。
「…………」
「黄色さんがそう言うのなら、名残惜しいけど帰ることにしようか。ほら、金糸雀クン。早く立ったらどうだい?」
薄桃色の髪をもつ青年は無言で頷き、緑髪の青年は笑みを張り付けて明人に起立を促す。
「……はい」
感情の窺えない明人の声と共に、絶対正義員達は通りに立ち並ぶ建物の間隙に向けて悠々と歩き出した。
「明人……くそっ!」
幹部が固まっている状況では迂闊に動けず、ただ歯を食い縛り、目の前の敵を見逃すことを余儀なくされた勇太郎達。
悔しさから顔を歪める勇太郎達に見せ付けるようにして、ゆっくりと歩を進める少女達だったが――
「あ、そぉだ」
突然、物陰に足を踏み入れようとしていた少女が声をあげた。
「ちょっとさ、そこの女の子二人持ってきてくんない?」
そう言って少女が指差したのは、未だに縛られたまま地面に座り込んでいるレイチェルとマリーだった。
笑顔のまま、僅かに動きを固くする緑髪の青年。
「……人に命令をするばかりで自分は動かない人間は、嫌われる傾向にあるって聞くんだけどね?」
「か弱い少女に人間を担げって言うのはどうなのかなぁー? ぼくはヒトデナシだと思うんだけどなぁー?」
「……はいはい、分かりましたよ」
ニヤリと笑う少女に見せ付けるように溜め息を吐いた後、緑髪の青年は進路を反転した。
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