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「悪いのはお前でしょ。まぁいいや。座標設定したし、移動したくないからもうさっさと帰るよ」
投げ遣りな視線で辺りを見渡すと、少女は目の前の路地には入らずパーカーのポケットに両手を突っ込んだ。
ピッという機械音が鳴ると共に黒い水泡が宙に生まれ、ふわりと立ち上り少女達を覆う。
「な、待てよ……っ!」
「えぇー、今さら待てとか言っちゃうのかよ? ちょっと遅くなぁーい?」
塗り潰されていく一行を見て思わず叫んだ勇太郎に、少女は瞳に嘲りを浮かべて笑う。そして、
「じゃあね、ヒーロー君」
嘲笑すらも塗り潰し、黒い雪のような最後の一片がひらりと宙を舞う。
エフェクトが帰したそこには、最早何者も存在しなかった。
周囲を見渡してみれば、ニーニの巨体も見当たらない。
「……くそ」
静まり返った空気に誰ともつかない呟きが滲み、溶け消える。音を飲み込んだ空間は僅かな重さを伴い、勇太郎達を圧迫する。
暫時、誰も動こうとはしなかった。それほどまでに痛烈な自己嫌悪と衝撃に思考を占拠され、ただ悔しげに唇を噛み締める――
「……え?」
突如とした鳴り響いた着信音により、強制的に硬直が解かれた。
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