第二章

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 陸野原大学病院の中庭は美しい。  子供たちは瑞々しい芝生の上で無邪気に遊び、何かを患っているのか車椅子に座る女性に、それを押す男性。彼らを見守る老人達は、温かみを感じさせる木製ベンチに座り日差しを浴びている。  降り注ぐ光に埋もれないよう、病院生活を謳歌しようと決めた人々が精一杯の平和を作り上げている。その平和への意思が美しいのだろうか。 「平和への意思、ね。思うほどキレイなものじゃないかもしれないわよ」  己の思考に無粋を混ぜ、カヲリは静かに窓から離れた。  クリーム色のカーテンが風になびき、背を向けたカヲリを追いかける。カーテンの裾が背中に触れる間際、それほど窓から離れていないその位置で、ピタリと足が止まる。  カヲリの目の前には、白いベッドと、それに横たわる少女がいた。  少女の頬は血の気がなく、とてもではないが健康的とは言えない。シーツから出された腕には輸血の管が射し込まれており、それがいっそう痛々しさを感じさせている。 「……平和への意思がキレイなものだなんて、言えるわけないじゃない」  ぽつりと呟くと、カヲリは俯き、痛心に歪む表情を隠す。  しかし、自責に浸る間もなく控え目なノックの音が響いた。
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