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「あい……」
真っ直ぐな眼差しで見つめられ、勇太郎は息を呑んだ。
「あいちゃん」
カヲリはあいの覚悟を確かめる為に、凛としたその瞳を見据える。
「本当に、話してしまってもいいの? よく考えて。あなたが今まで私と勇太郎君以外に言っていなかったのは――」
「カヲリさん。それは、私が弱かったからです」
毅然とした声で断言されるも、カヲリは引かない。しかし、
「あいちゃん、それは違うわよ。あなたは誰よりも周囲の幸せを望んだ。だから……」
そこまで言いあいの事情を思い出したカヲリは、口にするのを憚むと、そっと唇を噛んだ。そのまま痛ましげに目を伏せる。
「……ごめんなさい、今まで何もできなかった私が言えることじゃないわよね」
「そんなこと、ないです」
否定の言葉を口にするも、あいの語調は弱々しい。
「……次の会議って言ってたわよね。明後日の月曜に皆を召集する予定なのだけれど、それで大丈夫かしら?」
「はい……というか、明後日が月曜ってことは、今日は土曜日? やだ、私すっごい寝ちゃってたんですね」
「ふふ。寝顔、可愛かったわよ?」
「もう、カヲリさんったら!」
取り繕うように話題を変えたあいに、カヲリは穏やかな表情で会話を続ける。
「…………」
互いを気遣う二人を、勇太郎は静かに見守っていた。依然としてその拳には力が込められており、表情も険しい。
「―――――」
やがて、勇太郎が小さく呟いた言葉は、窓から吹き込む風に紛れて消えた。
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