第二章

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 ―――――……もう帰ってこないかもしれない、とか。言えるわけないよな。  明人への純粋な憧憬を宿した瞳を前に、葉月は横手へ視線を逸らして沈黙を保つしかない。  明人の選択次第では、「ウルティマイエロー」としての明人が姿を表すことは、もう二度とないかもしれない。代わりに、  ―――――……もし、イエローが「絶対正義員」として一般人の前に出てきたら、もう、終わりだよな。  軽く握った手のひらに、じとりと嫌な汗が滲む。 「緑川、どしたの?」  押し黙る葉月を訝み、克彦は首を傾げた。  ここで迂闊なことを言ってしまうと、もしも明人を極致正義へ連れ戻すことが出来なかった時に、極致正義に対しての不信感を抱かせてしまう可能性がある。  この状況における最善の選択は、何も断言することなく曖昧に誤魔化してしまうことだろう。しかし、  ―――――俺たちに下された命令は、イエローが留学している噂を広めること。留学には終わりがある……だから。不自然だろ。  自然と左手を掴みそうになる右手を止め、滲んだ汗を隠すように拳を握り締める。葉月はいつの間にか俯いていた顔を上げると、 「詳しい日程は忘れた……けど。短期留学だし、すぐに戻ってくる」  近い内に明人が帰還する事を断言した。
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