第二章

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 金曜の夜、上層部――理事会は、なし崩し的に明人がいない不自然を「極致正義自衛軍特殊戦闘部隊に所属している硫黄明人は留学としてアメリカに行っている」という噂を広めて対処する方針を伝えた。  それから三日が経過した月曜日。さくら役を命じられた教員や勇太郎達という信憑性のある情報源によって、明人の不在は違和感を抱かせることなく学園中に浸透させることに成功した。  そして、土日を掛けて行われた他の者よりも長い査問に応じていた勇太郎が解放され、ウルティマレンジャー達には、生徒の反応を確かめる為授業を受けたのちにオフィスへ赴くよう命令が下されていた。 「……ほんと、なんなんだよ」  葉月は、己も応じなければいけなかった査問の記憶に思考を馳せ、掠れた声で呟く。  結論から言うと、理事達は明人の裏切りに対して想像以上の重きは置いていなかった。 『なんと……ウルティマレンジャーから裏切り者が出るとは』 『たしか、イエロー君は初等部入学当初から優秀でしたよね。まさか、最初から裏切り……いえ、諜報活動の為の行動だったのですか』  予想通りの動揺を見せると即座に会議を設け、警戒体制に入る。 『それにしても、咄嗟に赤嶺君を守るとは私の娘にしては良い行動をしたようでしたな。これまでの教育が功を奏したようです。いやあ、よかった』  そう言って場を気にしながらも満足げに笑う桃園家当主を含め、理事達は一様に今後について案じた。
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