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「分かってるわよっ!」
怒気までは行かずとも、苛立ちを含んだ声と共に璃理の気配が後方へと離れていく。
凝らした聴覚で璃理が真後ろの席に着くのを確認してから、ようやく葉月は小さく息を吐いた。
「……はぁ」
「ほんと、仲良いよな」
「……誰と誰が」
揶揄の響きを伴う声に視線を向ければ、正面の椅子の背に凭れてニヤニヤと笑う小澤亮平と目が合う。
「んなもん緑川と黒埼に決まってんだろ?」
「小澤、ふざけるなよ」
相変わらず机に体を預けている為下から睨み付ければ、伸びた前髪に隠れがちな瞳が鋭さを増し、亮平を威圧する。
「そう怒んなって。ふざけてなんかねーし」
「ふざけてないなら、どういう意味なんだよ」
「それは……」
「小澤君、緑川君! 静かにしなさい!」
担任からの鋭い叱責が飛び、葉月と亮平は不承不承といった様子で口を閉じた。
それから数秒が経過し、注がれていた担任の注意が外れるのを感じた葉月は小声で亮平に問い掛ける。
「……さっきのふざけてないって、どういう意味」
「それは自分で考えろよ。てか、分かってんじゃねーの?」
「…………」
同じく囁き返された答えに、葉月はただ押し黙るしかなかった。
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