第二章

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*  そこかしこで話題に上る明人の「留学」に関する噂を小耳に挟みながら、気だるく単調な授業をこなす。そうこうしている内に、時刻は生徒達が待ちわびる昼休みへと移り変わっていた。 「葉月、ちょっといい?」 「……なんだよ」  払底寸前の購買でなんとか手にいれた、一番人気のない食パンスティック――パンの耳をかじりながら問えば、璃理は自分から声をかけたのにも拘わらずにさっと葉月から視線を逸らした。 「あ……いや、その、ね。よかったらなんだけど……」  快活な璃理に似つかわしくない歯切れの悪さに不信感を抱き、思わずそっぽを向いた顔を凝視する。すると、 「……アホサキ」 「な、なによ……って、アホサキじゃないって言ってるでしょ!」 「具合。悪いのか」 「……え?」  ぎこちなく喋る璃理の頬は、ほんのりと赤く染まっていた。 「な、なんでよ……?」  自分では気付いていないのか、璃理は戸惑いに揺れる視線を葉月に戻す。 「顔が赤い。様子も変。風邪じゃないのか。……今日は招集もあるし、具合悪いなら今の内に休んだ方がいいと思うけど」 「か、顔赤いって、そんなこと……あっ、そうだ!」  何やら慌てて葉月の言葉を否定しようとした璃理だったが、途中で何かを思い付いたのか小さく声をあげた。 「そうだ、って……」 「それは気にしないでちょうだい! ね、葉月。私、ちょっとだけ具合悪いみたいで、あまり食欲がないの。それでね、よかったらなんだけど、その……」  そこまで言うと、璃理は後ろに回していた手をおずおずと葉月に差し出した。 「……サンドイッチ、食べてくれない?」  その華奢な手には、小さく可愛らしい籐籠が握られていた。
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