第二章

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「え……」  目の前に差し出されたサンドイッチが入っているらしい籐籠を、困惑の滲む眼差しで見つめる。  ――そうだ、って言ってたし、明らかにおかしいよな。どうすれば……。  出来るだけ自然に見える動作で周囲を見渡せば、何故かスポーツ観戦をするかのように拳を握り締めて、熱のこもった視線を浴びせかけてくる璃理の友達――瑞穂と綾香の姿が目に入った。 「……なんで俺なんだよ。石鞍と一之瀬に食べてもらえば……」 「緑川、ふざけたこと言ってると拳骨くらわせるから」 「…………」  熱のこもった眼差しから一転、突如として切り替わった絶対零度の眼差しが葉月に襲い掛かる。 「み、瑞穂ちゃん。さすがにそれは緑川君も可哀想だよ……」 「綾香。たしかに状況を把握出来ていないのなら可哀想かもしれないけど……でもね、私は緑川とそこまで仲良くないから。友達優先なの」  真剣な声色で綾香を説き伏せると、瑞穂はじとっとした目で葉月を睨み付けた。 「それに、私達はお腹いっぱいだから。緑川は購買でパンの耳しか手に入らなかったんでしょ? 大人しく璃理に感謝してサンドイッチを食べなさいよ」  話しながら、瑞穂は固く握った拳を持ち上げた。  瑞穂の拳骨は、その細い腕から生み出されるとは思えないほどの威力を誇る。度々クラス委員の正義の鉄槌と銘打ち振るわれる拳は、その都度、克彦や亮平へ強制的に痛苦と沈黙をもたらしてきた。 「……はあ。アホサキ。これ、貰うから」  葉月はそっと溜め息を吐くと、籐籠を璃理から受け取った。
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