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「あ、うんっ!」
それまでの不安そうな面持ちが消え去り、代わりに輝くような笑顔が現れる。
「これがハムとレタス。これがタマゴで、これがポテトと明太子をマヨネーズをあえたやつよ」
璃理はニコニコと笑みを浮かべ、上機嫌が滲む声で籐籠の中身を順に説明していく。並ぶサンドイッチを指し示していく白い指をぼんやりと眺めながら、葉月は眉を寄せた。
「……多いな」
「え、そう? いくらもやしって言っても葉月も男の子だし、これくらい食べれると思ったんだけど……」
「いや、そうじゃなくて……」
葉月は言葉に詰まると、そのまま俯いた。
――アホサキのアホ。気付かないのかよ。
「……なんでもない」
詰まった言葉を飲み下し、葉月はそっと溜め息を吐いた。
喉元まで競り上がり、解放される寸前まで育てられた言葉が代わりと言わんばかりに胸中を巡る。
――俺が食べれると思った、とか。やっぱり……どう考えてもそういうことだよな。
璃理は、体調不良から来る食欲不振を理由に自分のサンドイッチを譲った――筈だった。
しかし、先程の台詞を顧みれば分かるように、璃理のサンドイッチは葉月が食べることを前提に作られていた。そのせいでどうしても璃理の行動と建前に齟齬が生じてしまい、それらに対する説明が噛み合わない。
普通なら、疑問を感じつつも気のせいで済ましてしまうのかもしれないが、しかし、
――くそ、反応に困るんだよ。
思考を進める内に必然とその齟齬を正す理由に辿り着いてしまった葉月は、僅かに上がった体感温度に顔をしかめていた。
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