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さりげなく俯く傾斜を増やし、長い前髪で赤い頬に影を落とした。
何度目になるか分からない溜め息を吐くと、葉月はちらりとサンドイッチへ視線を移す。
パンの耳は綺麗に全て切り取られており、具もはみ出すことなく、しかし少なくもなく丁度良い量が挟まっている。随分と丁寧に調理されたらしいサンドイッチは、璃理の説明を終えて葉月を待ち構えている。
「葉月、食べれそう?」
「え……あ、当たり前だろ」
不意の問いかけに余計な声を発しながらも、葉月は無理矢理平静を装ってサンドイッチへ手を伸ばした。
「…………」
璃理の視線を感じながらも、とりあえず一番手近にあったタマゴサンドを手に取り、口へと運ぶ。
『分かってんじゃねーの?』
――うるさいな。まだ、いいだろ。
ふいに朝の記憶が脳裏を過った。揶揄の響きを持たない声を無理矢理記憶の奥に押し込んで、サンドイッチを一口かじる。
「どう? おいしい?」
「……普通にうまい」
「普通にって何よ、おいしいのね? ……よかった」
ほっとしたのか、璃理は頬を緩めた。気の抜けた無防備な笑顔を直視してしまい、葉月は咄嗟に視線を手元のサンドイッチへと向ける。
――別に、俺はこのままでも……。
「……っ」
混入されていたらしいタマゴの殻が口内に刺さる。鋭い痛みに思考を中断され、自然と眼差しが険しくなった。
「どうしたの?」
「……別に。なんでもない」
鋭い痛みを甘い考えと共に飲み下すと、葉月はまた一口サンドイッチを口にした。
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