第二章

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「その……あいちゃん、さっき桃園家にはあいちゃんとお父さんしかいないって言ってたわよね?」  璃理のおずおずとした質問に、あいは感情の籠らない声色で答える。 「お母さんとお兄ちゃんは、私が四歳の時に交通事故でいなくなっちゃった。それから、私の家はおかしくなったの」  言い終わると、あいは誰に向けるでもなく嘲笑を溢した。 「お父さんはね、すごく「権力」に強欲な人なの。若い頃からずっと桃園家のエリートとして極致正義の上層部に携わっていたから、権力がどういうモノなのかをよく知ってるんだと思う……けどね、もうほとんど覚えていないんだけどね、お兄ちゃんがいる内はただ厳しい父親って感じだった。お母さんも、お兄ちゃんの教育に熱くなるお父さんを上手く抑制していたみたいだし……」  正面を見据えていた瞳がそっと伏せられた。長い睫毛が影を落とし、形のよい瞳から輝きが消えていく。 「でも、お兄ちゃん……「次期ウルティマレンジャー候補だった後継ぎ」が死んだせいで、安泰だったはずの、お父さんの権力の維持に亀裂が入った」  他者の声を無くした空間を、唯一、あいの暗い声が蹂躙した。  誰もがその声をただ受け止める事しか出来ず、無力を痛切して黙り込む。
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