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「そこからはね、あっという間だった。二人の葬式が終わってすぐ、お父さんは最も有力なウルティマレンジャー候補の子供がいる家――赤嶺家に接触した。そして、桃園家と赤嶺家の子供を許嫁として取り決めたの。それが、勇太郎と私」
俯けていた顔を上げたあいは、隣に座る勇太郎を見て曖昧に笑う。
様々な感情が複雑に入り交じった笑みを受け止めた勇太郎は、おもむろに両手を伸ばすと、机の上で組まれたままの小さな手をそっと覆った。
「許嫁なんか関係ない、花兄ちゃんが生きていた頃から……いや、あいを知ったその時から、俺はずっとお前のことが好きなんだ」
「……っ」
混じりけのない感情を向けられ、あいは小さく肩を揺らした。泣きそうに歪められた瞳で勇太郎を見つめると口を僅かに開き――そして、閉じた。
閉じたままの口で無理矢理笑みを形作ると、あいは勇太郎に向けて頷いてみせた。
ぎこちない微笑みを直視し、勇太郎の表情が険しくなる。
「あい」
悲憤に揺れた声が、そっとあいを促す。
「……ありがと、勇太郎。私もね、許嫁とか関係なしに勇太郎を愛してるよ。勇太郎がいたから、これからもいてくれるから、私は今こうして私のままでいられる。勇太郎に愛されてるから、私は桃園あいとして存在してるの」
名前を呼ばれてようやく声を取り戻したあいは、勇太郎へ向けて本音を囁いた。
「ありがとう、勇太郎」
微笑みと共に頑なに組まれていた手が離れ、それまで守るように覆っていた手と重なりあう。
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