第二章

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 信頼すればするほど人間は他人の内面を探ることを忘れ、その結果、今回の明人の裏切りのような事態を招いてしまったのではないか。  その推測に至ると、葉月は物憂げに視線を漂わせた。信頼という不安を無くす行為の果てに辿り着くのがこれでは、あまりにも報われない。そして、  ――でも、俺には関係無いよな。  あいの言葉に邪推を混ぜるのをやめると、葉月はゆっくりと顔を上げた。光量の増した視界に目を細めつつ、そのままあいと勇太郎をこっそり見詰める。  未だ繋がれたままの二人の手は脆くも強固にも見えて、傍目からは判別がつかない。しかし、無理に判別をつけなければいけないというわけでもない。  葉月は己でも気付かないまま信頼から来る思考の区切りをつけ、言葉の意味を、他人の思考を探ることをやめる。  ――きっと、これでいいんだよな。信頼なんてそれぞれの価値観。だから、俺には関係無い。それよりも、 「私が身を置く環境を皆に理解してもらったところで、本題に入るね。私、桃園あいは、明人さん……絶対正義戦闘軍上級幹部金糸雀家に協力を要請されました」  ――……それよりも、事実を把握することの方が、よっぽど大事だ。  再び沈鬱な表情を浮かべたあいを見据え、葉月は視線を険しくした。 「元々、お父さんから「近々これまでにないチャンスが訪れる。絶対に選択を誤らないよう、常に考えを巡らせておけ」……とか、こんな感じのことを言われてたの。だからね、何かあるんだって思って、ずっと……嫌で仕方なかった」  激情を堪えるかのように歪む口元に痛ましさを感じ、咄嗟に視線を漂わせる。
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