第二章

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「デスティニーランドで一般人を救助して避難所まで誘導する為に、葉月君と璃理ちゃん、私と明人さんで行動したよね。その時、明人さんに言われたの。「お父さんから何か言われてたりしない? 今日、この後、機会が訪れちゃうよ」って。それと……」  あいは視線を揺らして迷う素振りを見せた後、繋がれたままの手を握る力を強めた。 「「一緒においでよ。あいちゃんのお父さんの性格からして、きっと絶対正義の方が楽だよ」……って、苦笑しながら、明人さんは言ったの」  さ迷わせていた視線を勇太郎に向け、苦し気な笑みを浮かべるあい。 「ばかみたいだよね。私にとって一番大事なのは、勇太郎なのに。薄情かもしれないけど、お父さんと勇太郎、どっちが大事かって言われたら、私は勇太郎を選ぶよ」  言い放ったあいは、ゆっくりと目を瞑る。そのまま数回呼吸を繰り返し、次の発言の為に荒れた心を落ち着かせる。しかし、 「……でも。でも、そんな単純な計算じゃ、ダメなの」  ささやかな努力の甲斐もなく、遂には、苦し気な笑みすら壊れてしまった。 「私は、お父さんも大事なの……! 私のお父さんは、強欲で、怖くて、キタナイ大人かもしれない。どうしようもないのかもしれないけど……やっぱり私にとっては、大切なお父さんなの!」  それまで押し殺していた心の奔流が、堰を切ったかのように流れ出す。 「お母さんもお兄ちゃんももういなくて、私が大きくなるにつれて、私の中にいる二人も色褪せちゃって! もう、ちゃんと思い出せないけど……必死にあの頃を思い出すほど、私はお父さんの期待を裏切れなくなっていく……!」
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