第二章

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 涙を流してこそいないが、あいは目尻に光を浮かべ、湿った声で叫ぶ。 「だから、私はばかみたいに明人さんの要求を受け入れちゃった……狙撃ポイントに勇太郎を誘導するから邪魔しないでって言われて、ただ頷くことしか出来なかった……!」  心が示す正解は見えていた。しかし、そこへと辿り着く道を切り開くことが、あいには出来なかった。無情にも閉ざされた扉の前、甘い言葉と共に差し伸べられた手を取るというたった一つの選択肢しか見出せなかった己を嘆く。  長い独白が途切れ、会議室を重い沈黙が包み込む。 「……あい」  恋人に名を呼ばれ、あいは小さく肩を揺らした。今にも雫が溢れそうな目元を擦り、無理矢理口元に弧を描いて勇太郎を見る。 「……ごめんね。ごめんなさい、勇太郎。ほんと、私って最低だよね」  自嘲の言葉を聞いた勇太郎は、それまで張り詰めていた視線をふっと緩めた。柔らかい笑みを浮かべて、両手に収まる小さな手をそれまで以上に固く繋ぎ止める。 「そんなことねーよ」 「……そんなこと、あるよ」  否定の言葉は、予想の範疇だった。用意されていた自嘲の壁越しにあいの心をするりと撫でると、敢えなく滑り落ちていく。 「ないって言ってるだろ。なぁ、あい。ありがとな」  唐突に礼を言われ、あいは戸惑いに身動ぎをした。
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