第二章

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「なんで……」 「だって、助けてくれただろ」  揺れた問いとは正反対の毅然とした声で答える勇太郎。  今のあいに対して不安を、揺らぎを見せてはいけないと理解しているのだろう。勇太郎はあいを真っ直ぐに見据えると、続けて嘘偽りのない心を紡ぎ―― 「あいが助けてくれたから……俺を選んでくれたから、俺は今こうしてここにいられる。呼吸をして、意思を繋いで、あいの手を握って、赤嶺勇太郎がここにいられるのはあいのおかげなんだよ。だから、ありがとう」  最後は、満面の笑みで言い放つ。  明人の裏切り、勇次郎との邂逅、あいの吐露。この数時間で様々な事が起こり、そして、今も勇太郎を苛み続けている。  しかし、勇太郎はその全てを受け入れた。  己の動揺も、悲しみも、悔恨も。全てを塗り潰すだけの感情に突き動かされ、勇太郎は大切な人を想って心からの笑顔を浮かべてみせた。 「……でも、私は……」 「あい」  尚も自戒を連ねようとするあいを遮り、勇太郎は苦笑をこぼす。 「俺はあいを信じてるぜ? あいは、俺のこと信じられないか?」 「勇太郎の、こと……」  まるで冗談のような軽い声色で放たれた言葉は、あいの重く暗い心にいとも容易く入り込んでいった。 「私……私、は。勇太郎のこと……」  心に溶けた勇太郎の想いの分、それまで何とか決壊の寸前で保っていたあいの感情が圧迫される。光のように明るく、奔放に心を照らすそれに後押しされ――そして。 「……信じてるよ」  一粒の涙が、あいの瞳からぽろりと零れ落ちた。
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