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勇次郎は剣を下段に構えたまま地を蹴る。下から掬い上げるような鋭い刃の一閃を、勇太郎は寸前で避け切った。後ろに大きく飛び、勇次郎から遠ざかる。
そして、それは同時に明人から遠ざかることでもあった。
「明人、待て!」
慌てて剣を構えながら離れていく背中に向かって叫ぶが、明人は着々と歩を進めて一切反応を見せない。追いかけようとするが、
「明人様の後は追わせない」
「く、そ……っ!」
降り下ろされた剣に阻害され、勇太郎は歯噛みした。迫り来る刃を無視するわけにもいかず、咄嗟に横に跳んで回避する。
「逃げてばかりか! お前はそんな奴だったのかよ!」
複雑な色を浮かべた瞳で勇太郎を睨み付ける勇次郎。
勇次郎は自身を奮い立てるかのように大きく息を吸い込むと、キッと勇太郎を睨み付け、思い切り怒鳴った。
「逃げるなよ、兄さん!!」
勇太郎の動きが止まる。
「逃げるなよ、俺から。……明人様がお前の敵だったっていう事実から、逃げるなよ」
泣き出しそうな顔で立ち竦む勇太郎にゆっくりと近寄り、勇次郎は剣を正眼に構えた。
剣を握るその手に力を込めると、剣身が紅蓮の光を纏う。
「逃げないで……大人しく、斬られろよ」
憎々しげに勇太郎を睨み付けると、勇次郎は剣を降り下ろした。
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