第一章

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 紅蓮に輝く刃が袈裟斬りの軌道をなぞって勇太郎へと迫る。  強張った肩に刃が触れる――その時。 「……っ!」  風が勇太郎の頬をふわりと撫でた。  直後、柔らかいそれとは打って代わり鋭い風切り音が耳を掠める。場にそぐわないほど澄んだ金属音が鳴り響き、勇太郎は身動き一つ取れないまま危機を逃れた。 「は、づき……?」  咄嗟に身を滑り込ませ、重ねた剣で勇次郎の凶刃を防いだ華奢な人影を見て、勇太郎はポツリとその名をこぼす。  自分よりも僅かに上背のある勇次郎を睨み付けながら、葉月は低い声を絞り出した。 「……グリーンだ、馬鹿レッド。しっかりしろよ」  元々、葉月は先天性筋線維型不均等症(CFTD)のせいで筋力値が低い。この世に生まれ落ちたその時から筋緊張低下、筋力低下の症状に悩まされてきたのだ。いくら《フルトゥナ》でサポートをしても、勇次郎の渾身の一撃はそう易々と防げるものではない。  力勝負に勝ち目がないことは、誰よりも葉月が理解していた。 「邪魔だ。そこ、どけよっ!」  荒げた声と共に勇次郎が一歩踏み込んだ。がくんと葉月の体が揺れ、勇次郎の攻撃に押し込まれそうになる。 「なにぼんやりしてんだよ……っ!」  葉月は震える腕で必死に剣を固定し、そうして稼いだ時間で、勇太郎が「いつものレッド」に戻るよう呼び掛ける。 「殴るとかして、さっさとイエロー連れ戻してこいっ! 馬鹿レッド!!」  普段は大声を出すことの少ない葉月。その叱咤は、麻痺していた勇太郎の意識を揺さぶった。
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