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紅蓮に輝く刃が袈裟斬りの軌道をなぞって勇太郎へと迫る。
強張った肩に刃が触れる――その時。
「……っ!」
風が勇太郎の頬をふわりと撫でた。
直後、柔らかいそれとは打って代わり鋭い風切り音が耳を掠める。場にそぐわないほど澄んだ金属音が鳴り響き、勇太郎は身動き一つ取れないまま危機を逃れた。
「は、づき……?」
咄嗟に身を滑り込ませ、重ねた剣で勇次郎の凶刃を防いだ華奢な人影を見て、勇太郎はポツリとその名をこぼす。
自分よりも僅かに上背のある勇次郎を睨み付けながら、葉月は低い声を絞り出した。
「……グリーンだ、馬鹿レッド。しっかりしろよ」
元々、葉月は先天性筋線維型不均等症のせいで筋力値が低い。この世に生まれ落ちたその時から筋緊張低下、筋力低下の症状に悩まされてきたのだ。いくら《フルトゥナ》でサポートをしても、勇次郎の渾身の一撃はそう易々と防げるものではない。
力勝負に勝ち目がないことは、誰よりも葉月が理解していた。
「邪魔だ。そこ、どけよっ!」
荒げた声と共に勇次郎が一歩踏み込んだ。がくんと葉月の体が揺れ、勇次郎の攻撃に押し込まれそうになる。
「なにぼんやりしてんだよ……っ!」
葉月は震える腕で必死に剣を固定し、そうして稼いだ時間で、勇太郎が「いつものレッド」に戻るよう呼び掛ける。
「殴るとかして、さっさとイエロー連れ戻してこいっ! 馬鹿レッド!!」
普段は大声を出すことの少ない葉月。その叱咤は、麻痺していた勇太郎の意識を揺さぶった。
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