2021人が本棚に入れています
本棚に追加
思考の麻痺を解かした怒濤は、血流に乗り、勇太郎の身体中を巡る。
それは硬直を溶かし、その体本来の性能を取り戻させる。勇太郎は確かめるようにぎゅっと拳を握り締めた。
「……グリーン、助かった」
「……いいから、さっさとしろ」
「おう、そうだよな」
それだけ返すと、勇太郎は葉月の横をすり抜けて明人の下へと向かった。横顔に吹っ切れた笑みを浮かべている勇太郎をちらりと見て、葉月は心底安堵した。
しかし、それが仇となってしまう。
「……いい加減、邪魔、なんだよっ!」
「うあ……っ!?」
安堵は心身に弛緩を呼ぶ。その僅かな隙を見逃さなかった勇次郎はここぞとばかりに鍔迫り合いに力を込め、葉月をついに押し負かした。
「く……っ」
いつの間にか、勇次郎の加重方向は剣を振り下ろすためではなく、葉月を押しやるために正面へと向いていた。思惑通り後ろへ押されてしまった葉月は、バランスを崩してたたらを踏む。
「死ねっ!」
物騒な言葉と共に刃が空気を切り裂き、横凪ぎに葉月の胸部を襲う。
「死ぬか……っ」
負けじと言い返し、葉月は崩れた体勢のまま再び両手に握る剣を重ね合わせて防御する。
「そんな体勢で受け切れると思ってんのかよ!」
勇次郎は葉月の思慮不足と思える選択を見て、ニヤリと不遜な笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!