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「ローゼン侯爵家のベアトリス王妃が、フェッセン伯爵とコルタ大臣を引き合わせたって噂がある。大法官を通さず議員と財務府の大臣が繋がるってのもあれだが、それをローゼン侯が後見についている王妃がこそこそと……」
「フェッセン……コルタ……」
通り過ぎ、ヴァンは彼らには聞こえなよう、小さくその名を口にした。
記憶の中の顔と、その名前とを一致させる。与太話で出てきそうな顔ぶれではない。検証する価値はありそうだった。ヴァンは、次に向かう場所を決めた。
それにしても、そんな黒い噂が、このような場所まで声高に聞こえてくるようでは――
そろそろ、『その時』なのかもしれない。
「軍部はまだ絡んでないのか?」
「今のところ話は聞かないな。内政不干渉の軍部まで絡み出したら、それこそ……」
「あれか、内乱」
「神聖不可侵の天上の島が崩れるとしたら、確かに内部崩壊しかねぇかもしれねーな」
笑いが弾ける。
大陸民の多くは、高慢な『天上の島』の住民に好意を抱いていない。
また、男たちの声が大きくなった。
終わりを見せない与太話を背中で聞きながら、ヴァンは店を通り過ぎ、不自然にならない程度の距離を開けて立ち止まった。
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