第一話 始まりはその街から

7/9
前へ
/233ページ
次へ
「ローゼン侯爵家のベアトリス王妃が、フェッセン伯爵とコルタ大臣を引き合わせたって噂がある。大法官を通さず議員と財務府の大臣が繋がるってのもあれだが、それをローゼン侯が後見についている王妃がこそこそと……」 「フェッセン……コルタ……」  通り過ぎ、ヴァンは彼らには聞こえなよう、小さくその名を口にした。  記憶の中の顔と、その名前とを一致させる。与太話で出てきそうな顔ぶれではない。検証する価値はありそうだった。ヴァンは、次に向かう場所を決めた。  それにしても、そんな黒い噂が、このような場所まで声高に聞こえてくるようでは――  そろそろ、『その時』なのかもしれない。 「軍部はまだ絡んでないのか?」 「今のところ話は聞かないな。内政不干渉の軍部まで絡み出したら、それこそ……」 「あれか、内乱」 「神聖不可侵の天上の島が崩れるとしたら、確かに内部崩壊しかねぇかもしれねーな」  笑いが弾ける。  大陸民の多くは、高慢な『天上の島』の住民に好意を抱いていない。  また、男たちの声が大きくなった。  終わりを見せない与太話を背中で聞きながら、ヴァンは店を通り過ぎ、不自然にならない程度の距離を開けて立ち止まった。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加