第一話 始まりはその街から

8/9
前へ
/233ページ
次へ
「そしたら、シュヴァルトがマジで動くかもしんねぇな」  だが笑いの余韻を残して呟いた一人の発言に、一瞬、テーブルが静まった。  最強海軍を誇るサン=フレイア王国が、仮にも西大陸に属している状況は、東大陸の強国であるシュヴァルト帝国への牽制になっている。  近年はアルファザード王国と同盟と結ぶなど、大陸への干渉を強めつつあるサン=フレイアが、クーデターにより混乱を深めたとなると、シュヴァルトにとっては絶好の機会だろう。  一気に西大陸の攻略に乗り出す契機になりかねない。 「……この国はどうなっちまうんだろうなぁ」  男の一人が呟いた。  海の向こうのお家騒動を、面白おかしく語っていた時とは打って変わった、身に降りかかる不安を滲ませた声だった。  シュヴァルトが西大陸に攻め込むとなれば、宿敵であるアルファザードは、全力で迎え撃つことになる。  だが、その圧倒的な国土面積と人口をもって、著しい軍事増強を続ける帝国に対し、どこまで太刀打ちできるかは、不安が大きい。  その上、背後では血の気の多いヴァルク王国が、大国アルファザードの隙を狙っている。  アースガルダ大陸最後の統一王朝崩壊から、百年余り。  危うい均衡の中、保たれている平穏に、誰もが漠然と、恐れと不安を抱いていた。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加