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アルファザード王国南端の町、オルフェン。
南は広大な森林地帯イアルンヴィズの森に接するその町には、北は王都ファザーン、東は貿易都市トロイに続く街道が通っている。小さいながらも、賑やかで美しい町だ。
3月も終わりに近づき、日に日に春らしさが増していく午後の昼下がり。
町の大通りの一つで、大工道具を担いだ青年が、路傍のベンチに腰を下ろした。
黒髪に、紫の瞳を持つ長身の偉丈夫だ。
その隣に、大工らしい中年の男が並び座る。
「ヴァン、今日はすまねぇなぁ。急に手伝わせちまって。人手が足りなかったもんで、助かったよ」
「構わんさ。いつも世話になっている」
「そう言ってもらえると助かるよ。お前さんがいつも町にいてくれると便利なんだがねぇ。あの森に住んでるなんて、まったくおかしな連中だ。ほら、今日の分だ。急に頼んじまったから、割り増してる。これでお仲間とぱーっとやってくれや」
金属が触れ合う音を立てて、貨幣の入った小袋が投げられる。それを片手で受け取り、ヴァンが礼を言うと、左隣から弾けるような大笑が起こった。
自然、2人の視線が笑い声の方向へと向く。ベンチが置かれたストリート沿いに、テラスのせり出したカフェがあった。
そのオープンテラスの、一番ストリートに近いテーブルで、3人の男が上機嫌に騒いでいる。
恰幅の良い中年男性たちは、服装からして、町の新興ブルジョワ――中産階級といったところだろう。
これまで、世襲によって封土を支配していた荘園領主たちが退潮して久しいアルファザード王国では、入れ替えに、新興の都市商工業者が幅を利かせるようになった。
特に、王都に近く、交通網が整備されたここ中南部では、景気の上昇も手伝って、商売によって富を蓄積する、いわゆるブルジョワジーが増加している。
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