第一話 始まりはその街から

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 隣で話していた人間がいなくなると、急に当たりが静かになったような錯覚に陥るが、午後の町の喧噪は続いており、風に乗って、再び例の男達の声が届いた。 「――そう、だからシュヴァルトは、ヴァルクを裏で操って、『天上の島』への足掛かりを作ろうとしているって話だ」  酔って大きくなった声で、演説調に話す男の台詞が、聞くともなしに聞こえてくる。多くの場合、中途半端な知識階級の男たちは、政治の話が好きだ。  だが、地方貴族という共通の『敵』を持つ中央権力と新興ブルジョワのコネクションは侮れず、また国境を越えて商いを営む貿易商人などは、各国の機密情報も切り売りする。  辺境の町で昼から飲んだくれている小成金の噂話に、どれほどの価値があるかは検討の余地があるが、旧習にしがみついている地方領主などよりは、彼らの方がよほど新鮮な情報に精通しているのは確かだ。 「だが、お前よ。『天上の島』には、もう何百年も誰も手が出せてないんだろう?」 「そう。だからこそ、今なんだ。あの国は今、未曾有の問題に直面している!」  もったいぶるように言葉を切ると、別の男の声がすかさず割り込んだ。 「知ってるさ。あれだろう。王位継承権に最も近い、第一王子と第二王子が、共に失踪してるっていう。しかし本当なのかね?」 「本当さ。第三王子がもう15歳だろう。成人まであと2年だ。二人の王子を諦めて、王位は末の王子に継がすんじゃないかって話もある」  男の講釈を向かいで聞いていた連れが、知ったような口をはさんだ。
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