第一話 始まりはその街から

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「逆に、上の王子が戻ってくるとすりゃ、第三王子が成人するまでだろうな。どっちの王子か知らないが……」 「そりゃ第二王子だろう。第一王子は足が不自由で女のようにひ弱だと聞いた。自分で歩けもしない王子が、国を出て何年も生きていられるわけがない。国内でも、だいたい帰ってくるのは第二王子だろうって予想だ」  事情通ぶっている男がぺらぺらとしゃべる。別の男が、相槌代わりに問いかけた。 「揃って戻ってくるってことは?」 「それじゃ、何のために3年も姿をくらましてるんだか分からない」  演説男が笑った。 「そりゃそうだ……にしても、もう3年なのか。そんな状況で、元老院は何もしていないのか?」 「元老院は、この数ヶ月で議長が替わった。サン島のフェッセン伯が当選したらしい」 「サン島議員が議長か、珍しいな」  元老院の名前が出て話の流れが変わった。元老院は、サン=フレイア国王の、政治上の諮問機関だ。  流して聞いていたヴァンも、少し耳をそばだてる。  彼らが『天上の島』と呼ぶサン=フレイア王国は、大きく分けて2つの島からなる、エーギル海に浮かぶ島国だ。  国家の成立過程で、フレイア島がサン島を制圧し、領土に組み込んだという歴史があり、長年、この両島は対立関係にあった。 「ロンテル自治商区の景気がいい。なんでも南大陸の西海岸に新しい商港を見つけたとか。鉱山の産出量の国外輸出への比重が高まっているだろう。国内にばらまくより儲かるからって、国内の流通量を絞っているって噂だ」 「なるほど、それでサン島派に勢いがあるわけか」 「輸出の関税を引き上げるってフレイア島派の税案に、サン島派が大反対して否決された。ローゼン侯爵家の娘が現国王に嫁入りしてからこっち、年々サン島議員の声が大きくなってる」 「今のままだと、どっちにしろ王位もローゼン侯爵の孫息子に決まりそうだしな……ディオン侯爵家のお姫様はどうなったんだ」  話が盛り上がり、次々に横道にそれていく。『天上人』のお家騒動は、大陸の民にとっては、いい酒の肴なのだろう。
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