ふたりの幸せ

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「ただいま」    ゆっくりと、自宅であるボロアパートのドアを開ける。六畳のゴミがいくらか散らかっている居間で、親父がいびきをかきながら寝ていた。  加奈が着ているレインコートを脱がし、玄関で出来るだけ水をはたいてから、靴箱の上に畳んで置く。  洗面所で手洗い、うがいを済まし、二人で足音を立てないように、居間の隣の部屋......子供部屋に入る。  居間より少し狭いこの部屋に、物は殆ど無い。俺の勉強机と、加奈の玩具箱、あと布団位だ。壁には加奈の描いた絵が五枚貼られている。  親父が寝ている時は、必ず無言になる。うるさくして怒られたくないから。  そのバカ親父から逃げるために、加奈と二人で暮らす約束をしたのは二年前。頼れる親戚はおらず、施設になんか入りたくなかったから、そんな約束をした。  勿論、四歳と十二歳の子供が二人で暮らすなんてできる訳がない。約束というより、儚い夢だった。    それでも、その“夢”を叶えるために、中一から新聞配達のバイトをして金を溜めている。七割は生活費になるけど、少しずつ貯金は増えている。  我が家にある金は、俺のバイトの収入と、母さんの生命保険金だ。保険金の方はあと数万しか残っていないが。  
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