死人島

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 とにかく気味の悪いものだ、と思って怖いもの見たさから男を見ていると、ハッ、と、首もとにゴキブリが飛び付いてきた時のように驚いた。男の襟首近くで揺れる名刺には、私が憎んでいた恋敵の名前が記されていた。  私はその途端、無意識のうちに忘却していた記憶が瞬く間によみがえり、私がこの男を崖から突き落とし、その後こがれていた女を言葉巧みにこの崖へつれてきて無理心中させたことを、はっきり思い出せたのだ。それを思い出すと、私は異様なほど明るい砂浜を走り、女の姿を探した。暫く探し続けた時のことである。私はついにその女を見つけた。しかし女はもう頭だけになって、水面の上を海鳥に啄まれて浮かんでいる死骸の断片に過ぎなかった。  私はそれを確認すると、やはりここは死後の世界に違いない、そう思って、波間で揺らぎ海鳥に啄まれる女の頭をただ無情に見つめるのだった。暫くすると、女の頭をあとにして、私はこの島に屹立と聳える崖をのぼり、もとの世界への飛翔を試みた。  私は死後の世界で死に、また生まれ変わる。間違ってもこれが現実であることを認めたくなかった。女の頭を見た時、ふと思ったのだ。  プカプカと揺れる女の頭。頭から流れ出た血が蛸の足のように四方へ飛び出て、漂っている景色・・・・・・嗚呼、なんて醜いんだ。  私はそう思って、崖から飛び降りたのだった。
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