桜のある風景

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へぇー。これは凄い。 依頼人から大きい木だとは聞いていたが、まさかここまでとは。 村に入るためのチェックを難なくスルーした後、とりあえず村の中心にある大木を訪れた。届け先の期限まではまだ時間もある。大木があるのは村の中心部。広場のように開けた場所にその大木はあった。広場のすみには一本の小川。水は透き通り時々魚が見える。夏場はきっと、子供達の水遊びの場所や物を冷やす時に使われるのだろう。そんな日常を思い浮かべる風景がそこにはあった。散歩に来たのか一人の老人が桜の下で桜の木をただ見上げていた。 遠くから見てもデカイのは分かっていたが、近くでみるとまた迫力がある。 子供が10人手を繋いでもかこえないほど大きそうな幹。枝の一本一本が普通の桜の木の幹位はありそうである。そんな枝が四方に無作為に伸び広場の上に傘のようにかかっている。今の季節。春。満開の桜がこの広場を染め、街を桜色に埋め尽くしたはずだ。そう。はずだった。桜はここ数年咲くことはなく、ただ鎮座しているだけ。数年前までは咲いていたというのだから、その時まではきっと多くの旅人やその旅人目当ての商人で賑わったはずだが、もう見る影も無い。
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