プロローグ

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お母さんは昔から度々あの人の話をした。 話す母さんの顔は懐かしそうで楽しそうで、どこか悲しそうだった。 昔は一流の冒険者として鳴らしたというお母さんの話はいつも楽しくて、もう死んでしまったお父さんの話と同じくらい私は話をせがんだ。 それに比べてあの人についての話は、細かいところをぼかす割にどこか荒唐無稽で、私は成長するにつれ、興味を失っていった。 だから、病床にいるお母さんからあの人のことを言われても、すぐには思い出せなかった。 ―――――そろそろ、もうすぐの筈なの。あの人ならきっと助けてくれるから。何かあったら頼るといいわ。いいえ、むしろいっぱい迷惑掛けちゃいなさい。 そういってからからと笑った声はゴホゴホと咳き込む音に変わった。 そんな会話から3日後、お母さんは息を引き取った。 悲しむ暇もないくらいバタバタとお葬式を終え、やることが無くなった私は茫然とリビングに座っていた。 そのままどれだけ経ったのだろう。窓の外も暗くなったころ、ドンドンと扉を叩く音にはっと我に返り、ドアを開けた。 ―――――チビ、しばらく此処に泊めろ。しっかし、こんな暗いとこでなにしてんだ? そう言ってズカズカ家に入ってきた男に一瞬唖然として、慌てて服の裾を掴んで引き留めた。 ―――――なんだ、チビ?俺はもう眠みぃんだよ。 その言い草に私はイラッときて、「ふざけないでよ!こんな大変な時に何よ!」と叫ぶと、何故だか泣き出してしまった。 しゃがみ込んだ私の頭に、同じようにしゃがんで手を置いた男の顔は、笑っているように見えた。 その後、男がお母さんの言っていた『あの人』だと知ることになる。
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