3409年:ハイデ

3/6

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「大丈夫ですよ、アリスさん。 犯罪者に恨まれて追われることはあっても、犯罪者として追われるようなことはありませんから。 ジョーも、笑ってないでなんか言ったらどうですか?」 意地が悪そうに笑う青年―――ジョーに向けて呆れた眼差しで苦言を呈するのはこちらも青年。 それも、ジョーと見分けがつかない程同じ容姿をしている。 まあ、多少2人を知る者からすれば、言葉使いや雰囲気で区別がつくのだが。 アリスも、1週間程の深いとは言えない付き合いだが、どちらか誰か分からなくなることは無い。 基本的に、真面目そうで丁寧な物腰なのがセイル。 ものぐさで性格が悪いのがジョー、と記憶している。 同じ見た目でここまで性格が真逆なのも珍しいとアリスが考えていると、セイルがそういえば、と口を開いた。 「どこに泊まりますか?ジョー。 どこか心あたりは?」 「そうだなぁ・・・ 知り合いもいないし、どうでもいいや。お前が決めてくれ」 後ろ髪をガリガリと混ぜながら、困ったように首を傾げるジョーを見て、セイルはため息をついた。 「わかりました。 なら、昔住んでいた町の宿屋の支店があるらしいのでそこに行きましょう 私とアリスさんで宿は決めておきますから、ジョーは先にギルドに行っていてください。手紙の受け渡しもあるでしょう?」 アリスが居た町のギルドで速達便配達の依頼を受けている。 町から町への移動が多い冒険者にとっては、手間なく金が入る楽な仕事だ。 セイルの言葉を聞いたジョーは、器用に片眉を上げてセイルを見ていたが、すぐに彼にしては珍しく苦笑を浮かべると、後ろを向いてひらひらと手を振りながら歩いて行った。 その後ろ姿を見送って、セイルは悲しいような、呆れたような、苛立ちを含んだ顔で再度溜め息を吐いた。 「今回は3日くらいになりますかね・・・」 アリスは、セイルが見せた表情も、独り言のようなその言葉の意味も分からず、 しかし何を言えばいいのかも分からず、セイルを見上げるしかなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加