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闇の設定と光の八百長
室倉家は思念を読み解く能力を持つ。危険な呪具を管理し、或いはそれを用いて瘴気を払うことを使命とした一族である。その特性故に標的にされることもあり、つい一昨日の夜も悲劇が起きた。
その悲しみを癒す間も、不備を反省する間もなく、室倉家は新たな危機に直面していた。それがどういった類の危機であるかというと、貞操の危機である。
「で、どういうことなの?」
炬燵を挟んだ向かいの半眼に向かって、現室倉家当主――室倉塀二は言い訳を探す。
「どういうことと聞かれても……なあ」
年が明ければ塀二は13歳になる。そんなまだまだ子供の所へ女が〝子作り〟にやって来た。塀二にとってそれがまるっきり「寝耳に水」というわけでもないので弁解は難しい。
「せやから、そういう習わして言うてるやないの」
困窮する塀二に代わって、横の一辺に座る着物の女が答えた。
質の良い訪問着に薄化粧の中で目立つ赤い口紅。塀二からすればいくつも年上に見える大人の女だ。そんな相手が自分と子供を作りに来たというのだから、塀二は顔を合わせることさえできずに口出しを止められなかった。
「うちら春日居の者は室倉はんみたいな特殊な家系――妖部≪あやしべ≫の血を絶やさんように次の世代を産むのがお勤めどす」
特殊な血統を確実に後世へ残すための措置。自分の出生にも関わることなので塀二も父から聞かされていた。その時は「お嫁さんが来てくれる」くらいにしか受け止めなかったが、この期に及んでは同じ感想で安穏としていられない。
「産むって、それってつまり……」
「子作り、ですわなあ」
着物の女――春日居はのんびりした調子で笑顔を絶やさない。目の端でそれを見るとどこか怪しかった。思念を見通す室倉の前で警戒しているのかもしれないが、複数種の笑顔で様々な感情を表す女だ。
「子作りって――こいつはまだ中学生なのに! あんたみたいな大人がそんなことしたら、犯罪でしょうが!」
春日居を相手に怒鳴っているのは鴨居框≪かもい・かまち≫。6年前の事故で妖魔〝闇渡〟に取り憑かれ、以来行き過ぎなくらい塀二の世話を焼くようになり気が付けば同居までしている。
「中学生ならもう充分。むしろ中学生やて聞いたからこそウチは慌てて――おっと。……まあホラ、別に『結婚してくれ』えて言うてるわけやないんえ? 『一発どや』って言うだけの話で」
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