闇の設定と光の八百長

3/34
前へ
/125ページ
次へ
 依霊とは意思エネルギーが堆積した思念体のことだ。超常の力を振るい強度も腕力も人間とは比較にならない。地球守りとはそんな彼らからなる組織。内部崩壊で弱体化しているとはいえ、依霊派たった一体でも充分な脅威に他ならない。  しかし依霊にも弱点はある。現在室倉家の蔵に保管されている災級呪具〝光烏〟がそれで、あらゆるエネルギーを種類に問わず消滅させることができる。とはいえ、光烏は本来の主である滝箕祢にしか従わない。そして滝箕祢は地球守りの兵。どちらかでも敵に回せば勝ち目は無い。 「室倉はんのおっしゃる通り、今の地球守りは弱っとる。でもだからこそ滝箕祢が健在なこの国に総本部を移してあるんよ。……てんご言わはったらあきまへんえ」  やや低めに張った声で、春日居が脅しをかける。 「国内有力妖部――四妖、〝赤月八≪あかがつはち≫・滝箕祢≪たきみね≫・日陰菱木田≪ひかげひしきだ≫・室倉〟の血筋のうち残っとるのはもうふたつっきり。だからこそ春日居はお役目に必死どす。室倉はんにはマジメに跡継ぎを考えてもらわんと」 「てめえこの野郎。序列順に名前出しやがって」  しばらく春日居と睨み合っていると、不意に框が席を立って台所から盆を運んで来た。すぐさま料理を並べ始める。 「作っといたの忘れてた。なんか半端な時間になっちゃったけど、話は食べながらでもできるでしょ?」  一般には明かされない社会の裏側について話していても、框は日常を手放さない。そんなところに塀二はほっとしたが、春日居は戸惑っているようだった。自分の前にも皿が並べられるのを見て切れ長の目を丸くしている。 「えぇ……? ああ、そんな、お構いなく。食事やったら外で済ませて来ますえ」 「いいから、もう用意しちゃったんだから食べて行ってよ。一応お客さんなんだし」 「お客さんて……」  動揺する春日居が面白くて、塀二は構わずに「いただきます」と言うと春日居も遅れてそれに習った。なおも戸惑いながら汁物に口を付け、一気に顔を綻ばせる。 「わぁ! ひょっとしてウチの為に別個に薄味のんを作ってくれたん? なんや嬉しいわあ」  言われて見れば、春日居の分は皿が小分けにされていた。汁物も色味からして違う。框は「お客さんだからね」と短く応え澄まし顔で漬物を口へ運んだ。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加