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「当たり前だろ。充実した青春の為には休んでられるか。大体俺が休んだら、お前も付き添って休むつもりだろうが」
指摘すると、框は「うっ」と呻いて苦い顔をした。
「だって、看病は要るでしょ……?」
「そりゃお前がいてくれたら俺は助かるけどな」
以前なら断固「要らん。帰れ」と突っぱねるところだが、色々とあって塀二も強く言えなくなっていた。狼を招き入れてしまったことでも責任を感じていることを察して、それを訂正しても聞き入れないこともわかっている塀二は押し黙った。
そのうちに框のほうが口を開いた。
「丸一日寝てて、二日もお風呂入ってないから気持ち悪くない? お湯沸かしてくるから、ここで体を拭くだけでもしなさいよ」
「いや、あの、うーん……。しなさいよって言うけど、お前がやるつもりなんだろ?」
「すぐ用意するからね」
塀二がモゴモゴしている間に框は行ってしまった。
このままではどんどん逆らえないようになっていく予感がする。しかしそれがそれほど居心地の悪いものではないように思えて、塀二は顔を覆った。
◇
框が湯を沸かしている間に、塀二はそっと部屋を抜け出した。そのままじっと待っていて同級生に裸を拭かれるというイベントを回避したかったのと、眠っている間放置してしまった蔵の様子が気にしてのことだ。
封印妖魔に対し監視の目を光らせていることを報せる日課。代を継いでから欠かさなかったことを一日空けただけで落ち着かない。
塀二が蔵に足を踏み入れると、封印妖魔たちは皆大人しくしていた。瘴気を呼ぶ波動も凪いで静かだ。これは実力を認められたというよりも、狼との戦いを通じて「こいつは命懸けで仕掛けて来る」と見込まれたというところが大きい。
塀二はホッとした胸の内を顔に出さないよう努めた。
重傷で苦しんでいた間にタワゴトで頼んでいたらしい光烏もきちんと安置されていた。なんだったら棚も少し整理されている。框がやったのだろうと見当を付けて、そして無意識の頼みごとを後悔した。
(とうとうこんな所にまで踏み込んできたか……)
室倉家に短命を宿命づけていた呪いの煙はもう無いとはいえ、失敗だった。框に憑いている妖魔、闇渡と妙な影響を起こす危険がある。
それはそれとして、室倉の務めを果たさなくてはならない。
「さてと、ひさしぶりなわけだが……何か話はあるか?」
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